当科について
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特色
破裂脳動脈瘤、脳動静脈奇形、脳出血などの急性期出血性疾患の外科的治療を中心に、頚動脈狭窄症、頭蓋内動脈狭窄・閉塞などの慢性期脳血管障害に対しても、内膜剥離術やバイパス術を数多く行っています。
一般に治療困難とされる大型脳動脈瘤や解離性動脈瘤に対しては、バイパス併用による根治術で良好な成績を収めています。
血管内治療では、2015年10月に運用を開始した脳卒中ホットラインで脳梗塞超急性期の搬送が増加し、結果として血栓回収療法、急性期頚動脈ステント留置の症例数が増えています。
脳血管障害だけではなく、頭部外傷、脳腫瘍(髄膜腫、聴神経腫瘍、下垂体腫瘍などの良性疾患、神経膠腫、転移性脳腫瘍などの悪性疾患)、特発性水頭症、半側顔面けいれん、三叉神経痛など脳神経外科疾患ほぼすべてに幅広く対応しています。
命にかかわる頭痛

多くの場合は脳動脈瘤が破れて起こります。患者さんは突然、激しい頭痛を自覚します。嘔吐や意識障害を伴ったり、最重症ではそのまま死亡することもありますが、出血量が少ない場合には頭痛以外に症状がないこともよくあります。
一度破れた脳動脈瘤は高い確率で再び破れます。一回目の出血で運良く助かっても、放置すれば二回目以降の出血によって多くの方は死亡してしまいます。
治療(開頭手術または血管内塞栓術)によって再出血は防げますので、突発する激しい頭痛を自覚したら迷わず脳神経外科を受診しましょう。
また、くも膜下出血を未然に防ぐ方法もあります。MRIによって、まだ破裂していない脳動脈瘤を見つけることが可能なのです。くも膜下出血には家族歴がある場合もありますので、自分の親兄弟でくも膜下出血になられた方がある場合は一度脳神経外科にご相談されてはいかがでしょうか。
半側顔面痙攣、三叉神経痛について
顔面の動きを支配する顔面神経、また知覚をつかさどる三叉神経はいずれも脳幹部から直接に出ている脳神経です。顔面神経の脳幹部からの出口に脳血管が接触し刺激状態となると、半側の顔面が勝手に痙攣をしてしまいます。また三叉神経の場合には、突然の電撃痛が顔面を走ります。命にかかわる病気ではありませんが、罹病期間が長くなるにつれて精神的な苦痛も伴いうつ状態に陥ってしまうことも希ではありません。最も完治率の高い治療方法として微小血管減圧術という手術治療が確立されています。
手術は全身麻酔下に患側の後頭部に直径2.5センチ大の小孔をあけ、そこから手術用顕微鏡下に罹患した神経と責任血管を同定し、血管をテフロン、ゴアテックスなどの人工物で移動させます。手術そのものは2時間半ほどで終わり、通常手術後10日ほどで退院可能です。合併症としては患側の聴力障害や小脳失調などが考えられます。
当院では積極的に微小血管減圧術をおこなっております。聴力障害を含めた合併症もこれまでのところなく、良好な治療成績を収めています。半側顔面痙攣、三叉神経痛でお困りの方は是非一度ご相談をください。
医療関係者の方へ
機能的脳神経外科疾患の代表ともいうべき特発性三叉神経痛の病態と診断、またその治療⽅法から特に微⼩⾎管減圧術の有効性についてご紹介します。
特発性三叉神経痛とは
⽚側の顔⾯に、電撃痛または刺すような鋭く強い痛みが繰り返し発⽣します。⼀回の持続時間は数秒から⻑くて2分 ほどです。誘因なく突発的に発⽣することもありますが、⿐⼝唇や頬、頤、⻭⾁、⻭⽛などに誘発帯が認められる場合 が多く、冷⾵への暴露、⻭磨き、髭剃り、⾷事などで刺激されて痛み発作が発⽣します。痛みは三叉神経の各分枝領域、特に2枝、3枝、または2-3枝の領域にまたがって起こることが多く、1枝領域に単独に起こることは稀とされています。
痛みは数か⽉間発⽣頻度の少ない状況から、再び⾼頻度に発⽣する期間が続くなどの周期を繰り返します。想像を絶する強い痛みで、⻭磨きや洗顔などの整容や⾷事もままならず、⼝腔内不衛⽣による⻭周病の合併、栄養失調、うつ病、⾼齢者の場合には活動性が低下して寝たきりとなってしまう場合もあります。当院で治療した患者さんの中には、痛みに耐えられず⻑いこと寝込んでいたために仙⾻部に褥瘡が出来ていた⽅もいました。
痛みが⻭⾁や⻭に起こることもあるため、最初に⻭科を受診することも多く、⻭痛と診断されて抜髄や抜⻭をされてしまう症例も少なからず報告されています。
原因は
ほとんどの場合、脳幹近くの脳⾎管(上⼩脳動脈、前下⼩脳動脈、脳底動脈など)が三叉神経を圧迫して発症します。特に三叉神経根侵⼊部 (root entry zone: REZ) を⾎管が持続的に圧迫することで同部位に脱髄が起こり、痛み刺激を伝える繊維と末梢から触覚刺激を伝える繊維の間に短絡路が形成され、末梢からの刺激にショートするように神経発⽕して発作的な痛みが⽣じます。発⽣頻度は10万⼈に4-5⼈で、⼥性に多い(1:2)傾向があります。
ほかの原因として、⼩脳橋⾓部腫瘍、のう胞、脳動脈瘤、⾎管奇形、多発性硬化症などに合併して発⽣することもあり、これを症候性三叉神経痛として区別します。また三叉神経第1枝領域に症状がある場合、帯状疱疹の⽪膚症状が数か⽉遅れて出現する症例や、帯状疱疹後の痛みが⻑期間後遺している症例もあり、鑑別にやや注意が必要です。
診断は
前述の特徴的な症状から脳神経内科、脳神経外科等の専⾨医を受診すれば診断は容易です。MRIによる画像診断は必須で、特発性三叉神経痛の場合は特にCISSと呼ばれる撮像⽅法が三叉神経を圧迫する責任⾎管を同定でき有効です。また通常のT1 強調、T2強調、FLAIR画像にMRAを含めることで脳腫瘍や動脈瘤、⾎管奇形などの症候性三叉神経痛との鑑別診断が可能です。
治療は
第⼀に薬物療法を⾏います。カルバマゼピンは最も有効な薬物療法で、初期には約8割に効果がありますが、服薬期間に相応して効果が減弱し5割未満の有効率に下がります。また副作⽤としてめまいや眠気、薬疹などによって続⾏が困難となる例も少なくありません。その他、プレガバリン、ガバペンチン、フェニトインなどの抗けいれん薬も使⽤されますが、カルバマゼピンに⽐べて有効率は低いとされます。
薬物療法の効果が薄い場合や続⾏が不可能な場合には、微⼩⾎管減圧術で根治が期待できます。全⾝⿇酔下に病側の後頭部(乳様突起のやや後⽅)に3x3cm位の⼩孔を開け、⼿術⽤顕微鏡下に三叉神経を圧迫する責任⾎管を同定し、これを移動して離れた場所に固定するか(transposition)、三叉神経との間にprosthesis(テフロン、シリコン、ゴアテックスなど)を挿⼊して三叉神経に接触しないようにします(interposition)。
⼿術時間は3時間前後、⼊院期間は約2週間です。95%以上の患者さんで治癒または有効で、効果は通常⼿術直後から得られます。⼿術創はうなじの⽑髪の中に隠れ、また開頭も⼩孔なため⼿術後の美容的な問題はありません。⼀⽅で6-10%に再発があり、⼿術合併症としては同側の聴⼒障害、顔⾯の知覚低下、感染などが数%、致死的な合併症も0.2%と報告されています。
超⾼齢や全⾝状態不良、⼿術を希望されない患者さん、微⼩⾎管減圧術後の再発例などには定位的放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)を考慮します。三叉神経節後⽅部、またはREZに⾼線量の放射線を照射することで1か⽉後くらいから徐々に効果が表れ、1年後には約7割の患者さんに有効とされています。⻑期的には約半数で再発し、⼿術に⽐較すると有効率は低いのですが、重篤な合併症が少ない利点があります。その他、局所⿇酔による神経節ブロック(ペインクリニック)も疼痛コントロールが得られる治療⽅法として知られています。
症例提示
当院で最近⾏った⼿術例を提⽰します。
50代⼥性。1年前から洗顔、⻭磨き時に左⼝腔内、⻭⾁、頬に電撃痛あり。⻭科医院を受診後、当院脳神経内科を紹介された。三叉神経痛の診断でカルバマゼピンの投薬が⾏われたが、200mgを服⽤するとめまいや眠気が強く、プレガバリンも同様の副作⽤によって続⾏不可能なため、⼿術治療を希望されて脳神経外科紹介となった。MRI(CISS画像)では左三叉神経を上内側から圧排する⾎管(上⼩脳動脈)を認め、責任⾎管と診断した(Fig.1 A,B)。
Figure 1
⼿術では三叉神経を腹側から圧排する責任⾎管を同定し、これをまず三叉神経から外し、索状にしたテフロン綿で吊り上げて⼩脳テント下⾯(硬膜)にフィブリンのりで接着させて(transposition)三叉神経の除圧を⾏った(Fig.2 A→F)。⼿術中には聴神経障害の発⽣を防ぐため聴性脳幹反応(ABR)を持続モニターし、潜時の遅延を認めた場合には⼩脳への圧排を解除し、潜時の回復を待って⼿術を再開した。
Figure 2
⼿術直後から三叉神経痛は完全に消失し、合併症なく⼿術後10⽇⽬に⾃宅退院した。⼿術後外来で経過観察をしているが、再発はなく痛みのために制限されていたADLも正常に復帰している。
終わりに
前述のように薬物療法の効果の認められない患者さんに対して、微⼩⾎管減圧術は現在までのところ最も有効な治療⽅法です。合併症として⽐較的頻度の⾼い同側の聴⼒障害(3-10%)も、術中にABRをモニターすることで1%前後まで減少するとされています。また⾼齢者に対しても合併症率は⾮⾼齢者に⽐較し同等であるとの報告もあり、⾼齢化社会が進むこれからは適応が広がる可能性もあります。
⼀⽅で、定位放射線治療や神経ブロックなど、外科的治療に⽐較して低侵襲な治療オプションが存在するため、患者さんに⼗分な情報提供を⾏った上で治療⽅法を慎重に選択すべきであると考えます。