検診などで貧血を指摘される女性の対応をされる開業医の先生は多いかと思います。
鉄剤で対応される先生もいらっしゃるかと思いますが、婦人科領域の貧血の原因について紹介いたします。
婦人科領域で貧血の原因となるのは当然子宮、もしくは卵巣卵管を原因としたものです。貧血がある以上はどこかで血液が消費されているということです。
子宮は閉経前であれば月経のため血液が定期的に消費されます。
その量は文献によってばらつきがありますが、1周期で50-120mlとされています。
月経量が多ければ(過多月経)、当然貧血を引き起こします。月経の量を他人と比較することはまずないため、本人の月経量が多いかどうかを評価するために、ナプキンの交換時間や、ナプキンを持った印象を聞きます。交換が1-2時間おきでナプキンがずっしりしていますといった返答であれば過多月経と考えてよいでしょう。
子宮筋腫は女性の30%にあるといわれる良性腫瘍で、大きいものだとバスケットボールより大きくなることもあります。しかし大きさが月経量を反映するわけでは必ずしもありません。たとえ1cmの筋腫であっても子宮の内腔にできる粘膜下筋腫であれば過多月経の原因となります。
治療は過多月経による貧血で困っている⽅、不妊の原因になっている方、腹部膨満などで困っている方などが対象になります。挙児希望があれば筋腫の核出、子宮温存の希望がなければ子宮の摘出が原因の治療となります。筋腫は女性ホルモンに依存し腫大していくため、閉経が近い年齢の方はGnRHアゴニスト、アンタゴニストを使用し、偽閉経状態を作り出すことにより、筋腫を縮小させ、閉経を待つことで手術を回避もできます。しかし保険診療となるのは半年までなのと、⻑期に⾏うことにより⾻粗しょう症のリスクを伴います。
⼦宮腺筋症は、子宮内膜に類似した組織が子宮の筋層内に発⽣する子宮内膜症のひとつです。子宮が固く、肥大していくことにより非常に強い月経痛と、過多月経の原因となります。
内科治療は月経をコントロールすることが治療になります。低容量ピル、プロゲスチン製剤といった内服治療のほか、子宮内に留置するタイプの黄体ホルモン製剤もあります。
外科的治療では子宮筋腫のように核出が容易ではないため、根治治療としての子宮摘出が行われることが多いですが、症状・挙児希望・年齢を考慮し、患者さんと相談の上で決定します。先進医療ではありますが高周波切除器を用いた核出術もあります。
子宮内膜増殖症は子宮内膜が過剰に分厚く増殖する状態で、長期の出⾎を引き起こします。
肥満、糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群などがリスクになるといわれています。
細胞に異型がなければプロゲステロンを使用したホルモン治療が原則となりますが子宮摘出も選択肢の⼀つになります。
いずれの疾患も治療はホルモン治療、鎮痛剤、⼿術治療などを患者さんの症状、生活状況などを勘案し、相談して決定します。
手術治療は腹腔鏡や子宮鏡に代表される低侵襲⼿術が主流であり、数日の入院で退院可能で早期の社会復帰を目指せます。もちろん適応の限界はありますが、働く世代に多い疾患のため、早期に退院できる低侵襲手術は良性婦人科疾患にぴったりと⾔えるでしょう。
婦人科疾患による貧血の原因は多くが良性疾患ですが、かならず除外しなくてはならないのが悪性疾患です。子宮頸がん、子宮体がんに代表される婦人科悪性腫瘍は若年女性にも発症するため、貧血を鉄剤のみで長期放置することは悪性腫瘍の見落としにつながります。
子宮頚部に発症する悪性腫瘍ですが、子宮は体の中心に位置する臓器のため、進行すれば出血だけでなく、尿路への浸潤による腎不全などさまざまな病態を呈します。
子宮頸がんの原因は⼀部の発がん性をもつハイリスクHPVの持続感染がほとんどを占めます。
現在でも年間2,800⼈が⼦宮頸がんで亡くなります。感染である以上ワクチンが有効とされており、海外ではHPVワクチンでHPV関連癌が予防できたという報告も出てきています。
治療は早期であれば手術治療となりますが、進⾏すれば放射線化学同時療法の適応となります。
子宮内膜に発症する悪性腫瘍です。近年、急激に罹患者数が増加しています。肥満、糖尿病がリスクとして知られています。若年の子宮体癌も少なくありません。
子宮体癌の基本治療は手術による子宮摘出が原則になりますが、挙児希望のある方で、子宮内膜異型増殖症やIA期を対象にした子宮温存治療も⾏われています。
特に糖尿病治療薬であるメトホルミンが子宮体癌の温存治療での再発リスクを低下させる報告がなされており、臨床試験も行われています(FELICIA Trial)。
女性の貧血を発見した際や、患者さんの方から、「月経量が多くて」「不正出血がつづいてて」などの症状の相談をされた場合は、鉄剤のみの処方で対応するだけでなく、当院もしくはお近くの産婦人科医院や、産婦人科のある病院への受診や、紹介などを勧めていただけると幸いです。
癌の早期発見につながる場合もありますし、それまで月経に苦しんでいる女性のQOLを改善するきっかけになるかもしれません。産婦人科は受診をためらう方もいらっしゃるので、先生方のご紹介が患者さんの助けになります。
当院は千葉県全域のみならず、茨城県からも患者さんを受け入れています。これまで連携のなかった先⽣もお気軽にご相談ください。