胃や十二指腸の粘膜が深く掘れて粘膜が欠損し、火山のクレーターのような形になったものをいいます。上腹部の痛み、吐気、嘔吐、食欲不振などの症状で悩まされたり、突然吐血や下血(黒色便)したりすることがあります。当院にも1年間におよそ80名の方が潰瘍からの出血で入院されています。
原因については近年ピロリ菌との関係が注目されています。 オーストラリアの医師によって発見されたピロリ菌は4ミクロンほどの大きさの細菌で、4本から8本のべん毛という糸状のひげが生えています。ウレアーゼという酵素を使って尿素からアンモニアを作り出しており、アンモニアはアルカリ性のため酸性の強い胃液を中和して自分を守っているというしたたかな細菌です。
ピロリ菌は健康な日本人でも50歳台以上では80%程度の方が、20歳台では20%程度の方が感染しており、年齢が高いほど感染率は高くなります。感染していても潰瘍となる方はごく一部であり、大多数の方では潰瘍は起こりません。一方、どのように感染するかは不明ですが、口を経由した感染(経口感染)が想定されています。
ピロリ菌感染の診断には内視鏡を使う検査と使わない検査があります。内視鏡を使う検査では胃の粘膜をつまみ、「(1)ウレアーゼ反応の有無を検査」「(2)顕微鏡でピロリ菌の有無を検査」「(3)ピロリ菌を培養する」という3通りの検査があります。
内視鏡を使わない検査では「(1)血液検査(ピロリ菌抗体を検査)」「(2)尿素呼気試験(ピロリ菌によるウレアーゼ反応の有無を呼気を集めて検査)」などがあります。
潰瘍の方ではピロリ菌を除菌すると色々都合が良い事が分かってきました。
元々潰瘍は再発しやすく、従来は再発しないようにお薬を飲みつづける必要がありました。ピロリ菌を除菌する事によって「(1)潰瘍の再発を起こりにくくする」「(2)お薬を飲みつづける必要がなくなる」などの利点があります。
除菌療法は制酸剤(プロトンポンプ阻害薬)と2種類の抗生物質を1週間内服します。除菌成功率は80%から90%と高率ですが100%というわけにはいかないようです。
副作用としては軟便・下痢や味覚異常、肝障害、発疹などが見られることがありますが問題となる事はあまりありません。除菌療法を行うかどうかは医師とよく相談されて検討する必要があります。
余談になりますが、腰痛などで痛み止めを処方されて潰瘍が悪化してしまう方が時々いらっしゃいます。潰瘍を患われたことのある方はその旨を医師にお話していただき、潰瘍のお薬を一緒に処方してもらう事を是非お勧めします。