リンパ腫は小児がんの約10%を占め、白血病、脳腫瘍、神経芽腫に次ぐ第4位の疾患で、正常リンパ組織の構成細胞に由来した悪性腫瘍です。多くはリンパ節原発ですが、時に縦隔や消化管・皮膚などのリンパ節以外の組織から発生する事があります。リンパ腫はホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2種類に大別され、本邦では欧米の国々と比較して、ホジキンリンパ腫の頻度が低いという特徴があります。成人では非ホジキンリンパ腫が更にたくさんの病型に分類されますが、小児/思春期では発症する非ホジキンリンパ腫の病型は限られており、下記の4種類の病型が約90%を占めています(図1)。またホジキンリンパ腫と異なり、非ホジキンリンパ腫では発熱、盗汗(寝汗)や体重減少などの全身症状を呈する事はあまり多くない事も特徴です。
今回は非ホジキンリンパ腫のうち、主要な4つの病型「リンパ芽球性リンパ腫」「バーキットリンパ腫」「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫」「未分化大細胞性リンパ腫」に絞ってお話をさせて頂きます。
リンパ芽球性リンパ腫は腫瘍化したリンパ球の起源によりT細胞性とB細胞性の2つに分類されます。その比率は8:2程度で、T細胞性リンパ芽球性リンパ腫は男児が女児に比較して2.5倍多い事が知られています。好発部位は縦隔、中枢神経、骨、皮膚などが知られています。T細胞性リンパ芽球性リンパ腫はStageⅢ以降の進行期で診断される事が多いです。B細胞性リンパ芽球性リンパ腫は比較的限局期で診断される事が多いですが、骨髄浸潤の頻度が高いことが知られています。
T細胞性リンパ芽球性リンパ腫は特に思春期以降の場合、前縦隔に腫瘤を形成し、気道圧迫や上大静脈症候群を来すことがあり、気道圧迫は時に高度で緊急での気道確保を要する事があります(図2)。初発時の症状としては、持続する咳嗽や喘鳴などがあり、時に気管支喘息として治療が行われている事も少なくありません。気道症状が2週間以上持続し、鎮咳去痰薬や気管支拡張薬の投与で治療反応性が乏しい、または増悪傾向にある場合には、胸部レントゲンは鑑別診断のために有用であると考えられます。また、リンパ節腫大は縦隔や頚部に多い事が知られています。
本邦での標準治療は、小児の急性リンパ球性白血病に類似した化学療法です。既報では進行期のリンパ芽球性リンパ腫において、5年無病生存率は77.9%、5年全生存率は82.9%と報告されています(図3)。
成熟B細胞性リンパ腫は成熟したB細胞起源のリンパ球が腫瘍化したもので、小児科領域では病理組織像が異なるバーキットリンパ腫とびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫を含む概念です。バーキットリンパ腫とびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫はともに男児に好発する事が知られています。
バーキットリンパ腫は腹腔内に発生する事が多く、頻回の腹痛や腹部膨満、食欲低下などを呈しますが、病初期には胃腸炎や便秘との鑑別が困難である事が多く、診断時に腫瘤が巨大化した進行例も稀ではありません。回腸末端から発生するバーキットリンパ腫では、狭窄による通過障害により腸重積を生じる事もあります(図4)。反復する腸重積や好発年齢から外れた年齢での腸重積ではバーキットリンパ腫を念頭に置く必要があります。また、バーキットリンパ腫は速い腫瘍増殖能と強い臓器浸潤性を特徴としており、骨髄に浸潤して白血病化する事や、中枢神経へ浸潤する事が少なくありません。びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は臨床症状や好発部位はバーキットリンパ腫と類似している事が多いですが、限局性である事が多く、骨髄や中枢神経への浸潤の頻度は少ないです。
本邦での標準治療はブロック型の短期集中型化学療法で、既報では5年無病生存率87.4%、5年無病生存率は92.8%と報告されています(図5)。成熟B細胞性リンパ腫では初回の治療開始時には腫瘍細胞が急速かつ大量に崩壊する事で発症する腫瘍崩壊症候群を合併することがあり、時に人工透析を含めた集中治療を要する事があるため、専門医療機関で治療を行う事が推奨されています。
未分化大細胞性リンパ腫は末梢性T細胞性リンパ腫に分類される疾患で、男児に多い事が知られています。半数以上の症例で発熱、盗汗や体重減少といったB症状を認め、StageⅢ以降の進行期で診断される事が多いです。節外性病変は皮膚、肺、骨、肝臓の順に多いです。発熱、皮膚発赤とリンパ節腫脹は時に増悪と軽快を繰り返す事があり、病初期は化膿性リンパ節炎との鑑別が難しい事があります(図6)。
本邦での標準治療はブロック型の短期集中型化学療法で、既報では2年無病生存率は74.0%、2年無病生存率は92.5%と報告されています。
これまで述べた通り、小児/思春期におけるリンパ腫は標準的治療を行う事で比較的高い確率で治癒が期待出来る疾患です。しかし、小児のリンパ腫は全身の様々な部位から発生し、様々な症状を呈するため、時に診断が困難となります。特に非ホジキンリンパ腫は病勢の進行が急速で、受診の時点で重篤な合併症を有する事が珍しくありません。そのため、小児/思春期のリンパ腫の診療においては、小児血液・がんに習熟したスタッフによる適切な初期対応がとても重要になります。
リンパ腫の診断には、病変の全部または一部を切除して行う生検による病理診断が必須です。多くの場合で治癒が期待出来る疾患であるため、最初に正しく病理診断を行う事は非常に大切です。その一方で、最初から生命に関わるような緊急性の高い状態である場合には、生検は先送りにして、暫定的な診断のもとに抗がん剤治療や放射線照射を開始する決断を迫られる事もありますので、小児血液腫瘍科医だけでなく、様々な専門性を有するチームによる迅速な判断が必要になります。
以下のような患者さんを診療された場合には、是非、当院へご相談を頂ければ幸いです。また、該当しない場合でも何か疑問に思われる症例などがありましたら、遠慮無く当院へご連絡いただきたく存じます。