当部について
理念・特徴
病院は患者の苦しみを和らげ、除去するための医療人の多様な活躍の場です。その一部門である病理部は、他部署の諸機能では置換出来ない特有な役割を受託されています。
それは症状、画像、体液検査など診断のための間接情報とは一線を画して、病の発信する組織の直接情報にアクセスする方法論の世界です。即ち、生身の検体や、不幸にして亡くなられた場合はご遺体の内実を直に観察させて戴きます。そして病の"組織"を、形態像のみならず、細胞、超微形態、活性物質、遺伝子の各次序での多様な解析を試み、それを通して病の本態を明らかにする事を任された部門です。その解析力の間口と奥行きを広く深めて、患者の苦悩の原因に迫り、快癒を支援する"礎"部門です。北総地域で信頼される基幹病理部となるべく日夜努力を重ねています。
現状は、若く志の高い病理医の異常な不足事態にあります。近郊、県内外、地方を問わず、誠実で志のある責任者を広く募集しています。お問い合わせ下さい。
病理学について
1.病理学の特色
病理学pathologyは病の理法を審らかにする事を旨として19世紀中葉にその制度が整えられた医学の一領域です。その語源はπασπο(sufferfrom~、蒙る、患う)+λογοσ(tongue、語る、記述する)に由来します。
病理学の課題は、対象とする人体の病の解明、ならびに治療根拠の情報提供にあります。その認識の骨格は、体軸の腹背側の二大管系組織、1)植物機能:物質摂取―消化―排泄(a)消化器、b)呼吸器、c)排泄の泌尿生殖器と2)動物機能:情報摂取―統合―運動(a)感覚器、b)中枢神経系、c)骨格筋系と、二大管系の間を充填する間葉組織:循環器系、造血器系、泌尿生殖器系、間充織補填の脂肪組織、結合組織に対する正しい認識です。
人体とは不可逆性と死骸を前提に成り立つ生き物です。寿命は不断の入力と出力の決済ゼロの世界で最大化できますが、現実には有機性の歪みにより(1)形成異常、2)代謝異常、3)循環障害、4)炎症、5)腫瘍(良性と悪性)の基本カテゴリーの病疾に襲われます。病理学とは正しく、この個体に巣くう"病の世界"の内奥を観察し、治療選択にあたっての必須情報取得学に外なりません。
治療の基本形
- 発症前に機能的、物質的に補充する【予防医学】
- 偏位状態を復元させる【養生医学、内科的治療】
- 部分欠損は甘受しながら病的部分を切り取る【外科的治療】
- 魔弾の射手の如く病変を選択的に消滅させる【分子標的治療】
- 傷害部分を他の等価機能部分(人工臓器、他者の臓器)で置換する【移植医療】
- 傷害部分を細胞レベルで補修する【細胞分化誘導医学(iPS細胞)】
2.病理学の手法
A.拡大観察(顕微鏡から電子顕微鏡)
- 病気のカテゴリー判別
- 良性か悪性かの判別診断
- 組織判定
- 病変の進展やstageに関する判定
- 術中診断
- 適合判定:組織移植など
B.選別的標的観察
- 特殊染色:アミロイド、Fe、Cu、などの金属、格子線維などの特殊組織
- 酵素化学染色:酵素活性分布
- 免疫組織学:細胞を構成する素材を染出して細胞の素性同定、細胞回転のマーカーなど
C.統合的観察:剖検(病理解剖)
- 病因究明の唯一無二の究極的手法。
- 遺族承諾の歴史と開かれた理法解明への道
a.官憲の眼を盗んでの剖検観察から、国民皆解剖制をしいたマリア・テレジアの功績
b.フランスを中心とする臨床医学の展開と病変相関理解の深化
c.画像検査隆盛と剖検の低迷期を経るも、臨床検査では見えない"病"の真実への反省と剖検再興の兆し - 医学教育への強力な組み込み:ドイツでの剖検体験型教育、本邦では研修時のCPCレポート
- 理念的医療の"理想-現実"のギャップを検証する必要性から剖検需要の再興
- 医療監査上の病理解剖の再考:遺族も関与する公開性の高いモデル事業の立ち上げ
3.今後の医療における病理学の方向
A.疾患即応型病理検査法の確立
- 検体検査における有機的情報獲得
- 迅速応需性のreal timeの病理診断学
- 専門病理に囚われない有機的病理診断学の創出
B.実経験に則した療法案出の基礎情報提供
- 悪性腫瘍の細胞素性の確定と分子標的情報
- 心・肝・腎の治療戦略情報の取得
- 酵素置換療法、全身性アミロイド症、腹膜透析療法の再考
C.治療指針の論拠提供
D.剖検による4基本層の解明と明日の医療への指針
- 体質基盤層
- 病気誘導潜在期層の発見と遅延策の病理診断学
- 病気進展相関層の防御法
- 致命的破綻層での“死の形態学”
4.成田赤十字病院の取り組みとご理解のお願い
- 「日本赤十字社」の理念を掲げる本病院は、戦前からの内外の医療活動を通して人命救助を含む人体保護事業に沿革を有します。現在は大学病院並の診療規模を有し、医療における総合力強化を計る中で、「質の高い医療」を通し「地域貢献」と「未来貢献」を目標に鋭意取り組んでいます。
- 病理科の行動視点から、臨床への速やかな形態情報報告を通して、最適医療の選択に供します。
- 病理科は人の誕生から死までを視野に入れた人体の病の認識を更に深め、より適正な明日の医学を創設すべく、努力して参ります。
- その不断の営みを通して市民と一体、地域医療機関と協力しあい、北総の医療を支える「基幹名院」として評価されるよう誠心誠意取り組みます。市民の皆様、関係各位のご支援をお願いいたします。
スタッフ紹介
病理部長 河上 牧夫
専門分野
臓器構造学
肝、腎、心、肺、内分泌、骨髄・リンパ節の造血器病理、乳腺の臨床病理学
資格
- 医学博士
- 病理解剖医資格
- 日本病理学会評議員
- 日本肝癌学会会員
メッセージ
一回限りの寿命人生で、個体が身体的・精神的な価値を如何にして実現出来るかを求めて、"病む"ことの調査に鋭意取り組んでいます。そこでは組織構造維持とその失調的異変に対する洞察をいかに深めてゆくかが問われています。
散逸構造である個体の維持原則を直視し、現代医学の期待的想念(還元的分析から得られた遺伝子の操作により"回復"できる)に与する事無く、その構造解析を通して、治療面での実践的戦略を探索しています。
病理副部長 梶 幸子
専門分野
産婦人科病理、軟部腫瘍、消化管、造血器病理
資格
- 医学博士
- 病理解剖医資格
- 日本病理学会認定病理専門医・指導医
- 日本臨床細胞学会認定細胞診専門医
メッセージ
臨床医と協力して精度の高い医療を提供できるよう努めてまいります。
非常勤医師:4名
- 川野 竜太郎
- 安藤 純世
- 影山 聡子
- 金田 夏帆
保有資格
- 日本病理学会認定 病理専門医、口腔病理専門医:5名
- 病理検査課臨床検査技師数:7名
- 日本臨床細胞学会認定細胞検査士:5名
- 日本臨床検査技師会認定病理検査技師:1名
病理業務の実績
検査名 |
平成27年 |
平成28年 |
平成29年 |
平成30年 |
令和元年 |
令和2年 |
令和3年 |
令和4年 |
令和5年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
剖検 |
10件 |
16件 |
15件 |
13件 |
20件 |
11件 |
7件 |
11件 |
9件 |
組織診 |
6,547件 |
6,907件 |
7,092件 |
7,330件 |
7,731件 |
7253件 |
7357件 |
7250件 |
7347件 |
細胞診 |
8,473件 |
9,080件 |
8,999件 |
8,656件 |
8,720件 |
8682件 |
8985件 |
8762件 |
8805件 |